ぴじゅうからのお部屋「夜のトイレはなぜコワい?!」~後編~ 2020年9月24日

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ページ番号 C1040406  更新日  令和5年3月31日

「夜のトイレはなぜコワい?~あの世とこの世をつなぐバショ~」【後編】

どうも、ぴじゅうからちゃんですぴ。「ぴじゅうからのお部屋」第8回目だっぴ!

今日も民俗担当の坂口さんが来てくれてるっぴ。ようやく「夜のトイレ」編完結だっぴーぴぴぴー!!!

 

あの世とこの世をつなぐバショ?

ぴじゅうからちゃんですぴ。

 

(以下、ぴじゅうからちゃん:ぴ、坂口:坂)

ぴ)坂口さん、こんにちはだっぴ~。前編・中編では、トイレが「境界」としての性格を強く持っていて、それゆえに不思議な場所、怖い場所だと昔の人によって考えられていた、ということを教えてくれたっぴね。

 

坂)ぴじゅうからちゃん、こんにちはー。華麗な前説、どうもありがとうございます。

 

ぴ)今回はついにタイトルの伏線回収をしてくれるとのこと…トイレが「あの世とこの世をつなぐ」とは、一体どういう意味だっぴ?

 

坂)うんうん。「境界」というものは、事象と事象の境目にあって、いずれの事象にも属さない存在だったよね。それで、トイレの場合を考えると(1)自己-外界(2)人体-自然(3)生活圏-外界と、少なくとも3つの視点において「境界」であると。

昔の人たちは、「境界」性が強い場所や時間は、現世と異界の「境界」にあたるとも考えていたんだよ。

 

ぴ)ええー!色々なものの「境界」は、異界との「境界」でもあるんだっぴ?!

 

昔ばなしの中のトイレと異界

 

坂)昔の人たちが、トイレは異界とつながる場所だと考えていた証拠が、昔ばなしの中に見つけられるよ。

昔ばなしや伝説のような口伝えで伝わってきたお話には、昔の人たちの考え方や生活の在り方がたくさん反映されているから、民俗学や歴史学の資料としても役に立つんだよ。

 

ぴ)えっ、そうなんだっぴ?確かに、そういうお話には昔の人たちの教訓が詰まってるのかもね。

 

坂)トイレがコワい、ひいては不思議な場所だと書かれている物語は、古くは8世紀の書物である『古事記』にもみられるんだけど…ほかにも、わかりやすいお話は12世紀頃にも確認できるよ。『今昔物語集』という平安時代末期に制作されたとされる説話集には、厠(かわや)、つまりトイレにまつわるこんなお話が載っているの。

  • 恵果という和尚が厠で出会った鬼を供養してあげる話(7巻21話)
  • 生前に罪を犯した娘の霊が厠に出てきて罪を告白する話(9巻19話)
  • ある官僚が冥界の厠の中で現世から連れて来られた生霊と会話する話(9巻31話)

どの話も厠、つまりトイレの中で、冥界の存在とコンタクトをとる話になっているよ。

例に挙げた説話は中国で起きた話として掲載されているけれど、古代日本では大陸から伝わった思想が広く浸透していて、在来の文化や思想と交わっていたから、当時の日本人のなかにも「厠が冥界とつながる」と考えた人はいただろうね。

 

ぴ)へぇ~そんなに昔からトイレは異界に通じる場所だったんだっぴね~。他には無いの??

 

坂)実はみんなが知っているような民話にも、トイレが不思議な役割を果たすものがあるよ!ぴじゅうからちゃん、「三枚のお札」のお話は知っているかな?

 

ぴ)知ってるっぴ!お寺の小僧さんが山姥に追われるけど、三枚のお札を使って切り抜ける話だっぴ!

 

坂)そうそう。だいたいそんな話なんだけど、ここでは話中におけるトイレの役割を考えてみましょう。

お話の詳細には色々なバリエーションがあるんだけど、

  • 小僧が山に入って日が暮れる
  • 山姥から逃れるためにトイレに入る
  • トイレの柱を身代わりにして山姥から逃げる

という点は共通しているんだ。小僧さんが入るトイレは、山姥のいる異界と、和尚さんの待つ現世との境界の役割をしているんだね。あるパターンでは、お寺に逃げ帰ってきた小僧さんが寺のトイレに隠れる描写があるんだけど、こっちはより一層、トイレが異界と現世の門になっている様子がわかりやすいよね。

 

「夜」は魔の時間?


坂)そうそう、異界と交わる条件には、時間も大いに関係してるってこと、忘れちゃいけないね。これも「境界」が関係しているよ。

古来、妖怪や鬼などの存在は境界と強い結びつきがあると考えられているの。時間で考えると、昼(太陽が出ている時間)と夜(太陽が沈んでいる時間)の間にあたる時間に、現世とあの世を往来することが多いんだって。

特に夕方は、これから暗くなって闇に支配されようとしている時間。すれ違う人の顔が判別できず「誰そ彼(たそかれ)」とたずねるくらいの薄暗さだから「たそがれ時」ともいうよ。また、たそがれ時を「逢魔が時(おうまがとき)」と呼ぶこともあるよ。これは昔の人が、薄暗いたそがれ時は妖魔や災いに遭いやすい時間帯だと考えていたことによるものなの。実際に現代でも、交通事故が最も起こりやすい時間帯だそうだよ。

次に、日が沈み切ってからの時間。私たちが普通、夜と聞いてイメージする時間帯だね。現代と違って、街灯もビルの灯りも無い時代、夜は月明りだけが頼りの暗闇が支配する時間だった。人の知覚が及ばない夜は、人ならざるものの時間だと考えられていたから、夜は神々の時間でもあり、鬼や妖怪が活発になる時間でもあったと考えられていたんだね。

 

ぴ)確かに、現代でも大きな神事は夜にやるっぴね!「三枚のお札」でも、小僧さんが山姥と遭遇したのは日暮れ時だったし、山姥が正体を現したのは夜だったっぴ。

 

坂)「夜」という言葉は、もともと日没から日の出の間の時間を指す言葉だから、私たちの感覚でいう夕方と夜が、昔の人にとっての「夜」だったと考えられるよね。

 

おうまが時を示す図

【図1】おうまが時は、だいたい太陽が沈み始めてから沈み切るまでの、薄暗い時間を示すっぴ。
図ではオレンジ色で表したっぴ。

まとめ「夜のトイレはなぜコワい?!~あの世とこの世をつなぐバショ~」

坂)さて、前・中・後編と続いて少し長くなってしまったから、最後に内容をまとめましょう。

  • 昔の人たちも「夜」の「トイレ」がコワかった。
  • その理由は、トイレが色々なものの「境界」にあたる場所であり、異界にもつながる場所だとされていたから。「境界」に属するものは、認知しきれないものであり、不思議なものや不気味なものとして捉えられやすい。
  • 元来「夜」という時間帯は、「おうまが時」と日没後の時間を指す。「おうまが時」は、昼と夜の「境界」にあたる時間なので、災いや異界の存在に遭いやすい時間とされている。日没後の時間は、本来は真っ暗で人間の知覚が及ばない時間帯なので、異界の存在が出現しやすいとされる。

⇒もともと不思議なことが起こりやすい「トイレ」という場所に、異界に通じやすい「夜」という時間帯に行くからとってもコワい!!

 

ぴ)こういう昔から受け継がれてきた感覚によって、トイレで怖いことが起きる作品がたくさん作られるようになったのかもしれないっぴね~。

そして、そういう作品のシーンを思い出してしまうから、おいらたちは夜のトイレがコワい。

普段、おトイレについて真剣に考えることなんて無かったけど…なかなか面白いハナシだったっぴ!

バイバイ、またねっぴ~ぴぴぴ~!

 

坂)さて、ずいぶん長くなったけど、「夜のトイレ」編はこれにてお終いでございます。お付き合いありがとうございました。

 

ぴ)いや~大ボリュームの内容だったっぴね。ちょっぴりオカルト風な内容もさることながら、秋の空気も相まって…すっかり涼しくなっちゃったっぴ~。

でもでも、油断は禁物!特に寒暖差の激しい時期は、体調管理を万全にして欲しいっぴ!

次回の「ぴじゅうからのお部屋」は誰が来てくれるっぴ?どうぞお楽しみに~!ぴぴぴぴぴ~!!

 

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